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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)2287号 判決 1956年4月24日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人五井節蔵の上告趣意第一点について。

所論は違憲をいうけれど、その実質は単なる法令違反の主張であり、かつ原審で主張も判断もなかった事項であるから、適法な上告理由に当らない。(なお所論の内容についてみても、証拠調が終った後、検察官に対し事実及び法律の適用について意見を陳述する機会を与えさえすれば、たとえ検察官が何等意見を述べなくても、訴訟手続が違法となるものでないことは、当裁判所の判例〔昭和二九年(あ)第一〇七条同年六月二四日第一小法廷決定、集八巻六号九七七頁〕とするところであり、かつ本件においては、第一審で検事は、所論摘示のように述べた上「相当法条を適用して」といって求刑しているのであるから、なんら違法のかどはない)。

同第二点について。

所論は、憲法違反を主張するが、その前提とする理由は、原審において主張なく、従ってその判断を経ていない事項であるから、適法な上告理由に当らない。(なお所論の捜索差押令状の執行を受くべき者の氏名が、被告人でなく金寿江であることは所論のとおりである。しかし差押令状または捜索令状の押収または捜索すべき場所の表示は、合理的に解釈してその場所を特定しうる程度に記載することが必要でありまたそれで十分であるとするのが当裁判所の判例(昭和三〇年(あ)第一五二一号同年一一月二二日第三小法廷決定、集九巻一二号二四八四頁)とするところであり、所論捜索差押は、被疑者金寿江に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき令状掲記の捜索差押の場所において、捜索差押の目的たる物につきなされたことが記録に存する捜索差押調書により明らかである。のみならず、記録特に現行犯人逮捕手続書によれば、本件の捜索差押の執行に際したまたま被告人について覚せい剤不法所持の事実が発覚したため、被告人に対し現行犯人として逮捕手続が行われたのであるから、刑訴二二〇条に基く押収と考えることもできる。結局双方の関係から見て本件手続を違法とするに足りない)。

同第三点について。

所論は、違憲を主張するが、その実質は単なる法令違反を主張するに過ぎず、かつ原審で主張なく、従って原審のなんら判断するところでないから、適法な上告理由に当らない(なお第一審判決の理由は、起訴状に記載された公訴事実を引用しているところ、その判文によれば本件没収が刑法一九条一項一号に当る物件として行われたこと明らかである。従って本件においては右一項一号を明示しなかったというだけで直ちに違法とはいえない)。

第四点について。

所論は単なる量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

その他記録を調べても同四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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